お母さん 今僕は思っています
僕にふるさとなんかなくなってしまったんじゃないかと
そして一つ残っているふるさとがあるとすれば
お母さんそれはあなた自身です
あなたは何から何までふるさとそのものです
今ここでこうして静かに目を閉じていると
お母さんあなたの声が聞こえてくるんです
今も聞こえるあのおふくろの声
おくび人生を教えてくれた
優しいおふくろ
あなたにとってただ待つだけの
私にとってただ歩くだけの
その10年が終わります
流れる季節や年月をしみじみ不思議だと今思います
家族を嫌ってふるさとを飛び出した
そんな私が見知らぬ街で
いつしか家族を持っているのですから
あなたの悲しい顔があれほど嫌いで
あなたの悲しい顔があれほど嫌いで
ふるさとを飛び出したのに
いつか私もあなたと似たような
悲しい顔をする男になっていたんです
覚えていますか
ふるさとを離れて
5年目の冬です
旅に疲れて
虚ろな顔で
あなたのところへ戻った時
ふるさとのあなたのところへ戻った時
暮らしがうまくいかない
東京での
東京での暮らしが
あなたのところへ戻った時
暮らしがうまくいかない
辛くて辛くて仕方がないと
私がしみじみ嘆いたことがあるでしょう
私がしみじみ嘆いたことがあるでしょう
私がしみじみ嘆いたことがあるでしょう
あの時あなたは
何にも言わないで
微笑むような
悲しむような
そんな顔をしていましたね
頼みもせんのに
コンロに火を灯して
熱いお酒を何本も何本もつけて
熱いお酒を何本も何本もつけて
私が頼みもせぬのに
熱いお酒を何本も何本もつけて
あなたは強い母でなく
あなたは優しい母でもなく
息子に酒漬けをすすめるだけの
息子に酒をすすめるだけの
言葉を知らない
母だったんですね
覚えていますか
10年目の春のことです
仲間と別れて
一人一人歩き出すと
夜中にあなたに電話をしたことがあったでしょう
10年続いてきた
10年続いてきた
10年歩き続けたこの道を
もう終わると呟いた私に
あなたはただ
うなずくだけの
うなずくだけの
返事しかできなくて
あなたは微笑む母でなく
あなたは命じる母でもなく
息子の声にうなずくだけの
言葉を知らない
息子の声にうなずくだけの
うなずくだけの言葉を知らない
母だったんですね
あなたにとって
あなたにとって
私の帰りを待つだけの
私にとって
故郷から遠く離れ歩き続けるだけの
その10年が今終わりますよ
そしてようやく
ようやくこの歌が 心を込めて歌えるようになりました
歩き続けた季節の中で 初めてあなたの歌が
今一番素直に歌えるように 歌えるようになりました
今も聞こえる あのおふくろの声
僕に人生を教えてくれた 優しいおふくろ
もう思い残すことは 何にもありません
本当に長いお付き合いでした
ありがとうございます
そして心を込めてさよなら
長い間お世話になりました
さよなら
さよなら